五十嵐ちひろの頭の整頓

考えたことを文章に残しておきます。

公立の女子校・男子校なくす?共学化する?

私の出身高校の話をします。

埼玉県立春日部女子高校。通称春女(かすじょ)。ここで過ごした日々は私にとっての一生の宝物で、生涯の友だちを複数作ることもできた、本当に思い入れの深い存在です。そして、そうであったのは、春女が「県立の女子校であった」ということに起因していると思っています。

 

そんな春女がいま、共学化を迫られています。

昨年8月に埼玉県の第三者機関「男女共同参画苦情処理委員」によって、県内の全ての男女別学校は共学化するようにとの勧告を受けたのです。

参考記事↓

www.saitama-np.co.jp

県内には現在、12校の県立別学校(一部定時制は共学)があり、その他にも共学だけどクラスは男女別という高校もあります。埼玉県以外で公立の別学校があるのは、今は栃木と群馬だけのようです。公立の男子校、女子校というものに西の人たちは馴染みがないかも知れませんが、私立のそれとはまた違った雰囲気を持っているものだと、私自身は認識しています。

 

さて、この男女共同参画苦情処理委員による勧告というのは初めてではなく、21年ぶり2度目です。21年前(2022年)というと私が入学する2年前でした。当時の各校の生徒会、同窓会、保護者会などの反発を受けて、教育委員会は2003年に当面は現状維持と結論づけています

私は2005年度に生徒会役員をしていました。当時別学校の生徒会役員で構成される会議(名前は忘れてしまったのですが)があり、共学化に反対するために組織されていたのですが、ちょうど2005年に解散が決まりました。解散を提案する会議に出席した記憶がぼんやりあります。確か、勧告後に活動をしてきて、教委の結論が出た後も動静を見ていたが、しばらくは共学化の大きな動きは起こらないであろう、と判断してのことだったと思います。なので、私自身は21年前の反対運動には関わっていないのですが、おかげで3年間春女に通えたことを思うと、当時頑張ってくれた生徒会の人たちに強い感謝の気持ちを今でも感じています。

 

さて、男女共同参画苦情処理委員による勧告を受けて、県内別学校では当然共学化には反対するので、別学継続を求める署名活動が始まりました。このニュースを知って私はいま、非常に悩む立場にあります。

参考記事↓

www.saitama-np.co.jp

 

関連記事などを読んで考えた、私が個人的に考える「共学化すべき理由」と「別学校を維持すべき理由」を書いていきます。

 

【別学校を維持すべき理由】

  • 選択肢が多いことは豊かなことだから
  • 女子教育にとってプラスになるから

ひとつずつ詳しく書いていきます。

 

選択肢が多いことは豊かなことだから

私が三重県に来て驚いたことの一つに高校の選択肢が少ないことがあります。中学生が高校を選択するときに「学力」と「私学か公立か」を考えるとほぼ1校か2校に絞られてしまうのを知ってショックを受けました。

翻って私が中学3年生の頃、「学力」と「私学か公立か」だけで絞ったら10校は選択肢がありました。なので「校風」で選んだんです。校風で選んで春女でした。10校の中にはもう1校女子校がありました。

こうやって校風で選べるのは人口の多い地域の特権です。ですが、すでにある選択肢をわざわざ減らすというのは、賛成できません。

例えば、春女は私が入学した頃からどんどん偏差値を落として、人気も無くなってきていました。その春女1校が近隣の共学校に統合されるとか共学化されるとか、となれば、それは一種の自然淘汰だと思って受け入れられます(同窓生として反対はしますが)。しかし、全ての別学校を共学化してしまったら、別学校だから作り出せた校風という選択肢は失われてしまうのです。

 

女子教育にとってプラスだから

春女で過ごした日々を思い返すと、3年間ずっとセーフスペースにいられたと感じます。もちろん全ての生徒にとってそうであったわけではないと思いますが、私にとっては傷つけられたり、貶められたりする危険のない、安心できる空間と時間がそこにはありました。

女だけの社会はドロドロしている、という人が男女ともに多くいますが、女子校と複数の女性だけの職場を経験してきた私に言わせれば、そんなもんは男社会のために作られたファンタジーです。

進学する高校がすべて抽選で決められる、韓国ソウルの学生を対象にした調査では、女子校に進学した生徒の方が、共学校に進学した生徒よりも成績が上がる傾向にあることが示されているそうです。

参考記事↓

www.asahi.com

記事中では競艇のデータも用いいて、女性は男性と競争したときに力を発揮できない傾向にあるということが示されています。

個人的には、女子校に通う生徒はより精神的に安定しやすく、精神が健康であれば、勉学や部活に集中することもできる、という側面もあるのではないかと考えています。

 

共学化すべき理由

  • 教育機会の平等が担保できないから

私が個人的に強く「そうだよなー!」と思える理由はこの1つだけです。

ぶっちゃけ春日部女子高校より春日部高校(男子校)の方が偏差値が高いし、浦和第一女子高校より浦和高校(男子校)の方が偏差値が高い。こういう状況で、女子校に通うっていうのは、一段劣ったような気持ちにさせるよなあ、と、それにはめちゃくちゃ共感するんです。(なぜか同じ市の名前が入っていても男子校・女子校で偏差値に明確な差があることも、なにかこう、社会的な不均衡があるように感じます。)

そして、普通科の公立校でトップの高校は浦和高校なんです。ピカイチの学力のある男子はトップの高校に通うことができるのに、ピカイチの学力のある女子はトップの高校に通う権利がない。これは不平等である!と言われたら、ぐうの音も出ないです。本当にその通り。別学のせいで、権利を奪われている子がいるという事実に胸が傷みます。ごく少数ではあっても彼女たちのために、共学化は必要だ!と声を上げたい気持ちもかなり強くあります。

 

私が現状別学校の弊害として考えていることがもう1つあります。それは、マイノリティを知らない男子校出身者が権力者になることです。

県内の別学校のほとんどは、明治時代の尋常中学校・女学校として始まった超伝統校です。そのため、地域でもエリートとされる学生が通うイメージが定着しています。実際に春女は偏差値こそそこまで高くないにしても、中学校で学級委員や生徒会役員を経験している子がクラスの大半というような学校でした。

そのため、私たち公立別学校出身者はちょっとした選民意識を持っており、同属的な集団の中でその意識が強化されていくので、高校卒業後にわざわざ「公立女子校出身」です。と公立を強調してしまったりします。

ですが、女子はその後共学の大学に通って「オイ、ブス」と言われたり、男子だけの飲み会に呼び出されたり、リーダーを決める際に男子に譲ったりする経験を通じ、または社会に出てから、女性ゆえに昇進に苦戦したり、セクハラにあったり、という経験を通じ、社会は学校で教わったみたいに男女平等なんかじゃないと気付かされ、女子校という空間で自分がどれだけ守られていたのかと、遅かれ早かれ知るにいたります。そして、虐げられる側の気持ちを学び、選民意識は薄れていくのです。(私もいつしか「公立女子校出身です」とは言わなくなりました。)

一方、男子校に通う生徒たちの生活もその後の進路も私は想像するしかできませんので、ひどい男性差別だ!と言われるのを覚悟で考えをここに記します。彼らは私たち女子校出身者と同じように、選民意識を研ぎ澄まし、名だたる有名大学に進学し、大きな挫折も知らぬままに、官僚や県職員、大企業の社員になります。彼らはまだ男女が平等だと信じているし、世の弱者と言われる人たちは努力不足であるだけだと考えていて、そういう考えのもとで行政や大企業が動いていくんだと思ったらぞっとするのは、私だけではないでしょう。

ですが、この課題は教育によって解決できます。作家のアルテイシアさんが灘高生に対して行ったフェミニズムに関する講義のように、ジェンダー格差やマイノリティの現状について学ぶ機会をしっかりと設けていれば、上記のような問題は解決できると信じているので、この点は共学化すべき理由には入れません。

www.kobe-np.co.jp

他にも問題点としてあげられているのは、性の多様性をどう捉えるかですが、それはもう国内外の先進的な別学大学がそうであるように「MtFFtMもノンバイナリーもXジェンダーも女子校・男子校両方に入れる」でいいと思います。これは別学校問題とは別物だと捉えていますので、ここにこれ以上書く必要はありません。

 

私の中でも、別学校維持と完全共学化、どちらが正しいか答えはでません。ただ、ひとりの女子校出身者として、あの幸せだった3年間を、これからの高校生たちにも経験してもらいたい、という思いから、別学校維持を支持する立場に身を置くことにしています。

この記事を読んでくださった方にも、ぜひ考えてみてもらいたいです。そして、別学校維持を指示していただけるのならば、下記の署名にご協力ください。

www.change.org

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五十嵐ちひろ