五十嵐ちひろの頭の整頓

考えたことを文章に残しておきます。

デザインと地域づくりの関係

先日、東京で地域おこし協力隊全国サミットというイベントがあり、参加してきました。全国で活動する地域おこし協力隊が集まって、ブース出展で地域の宣伝を行ったり、地域づくりの勉強になる講演を聴いたり、ワークショップを受けたりするイベントです。

基調講演の内容が共感でき、またとても為になったので、記しておこうと思います。この講演のテーマは「地域×デザイン~地域創生に効くデザイン~」です。登壇者はgood design company 代表の水野学氏です。中川政七商店や、くまモンのデザインで有名なクリエイティブディレクターの方です。

 

さて、彼の話はデザインとは何か、という話で始まりました。多くの人はデザインというと装飾、ただの飾りのことを指すのだと思っているけれど、実際はそうでは無いのです。少し話はずれますが、わたしが大学時代に師事した先生の話をさせて下さい。わたしは大学ではアートやデザインについて学んでいました。色彩構成という授業を取って最初の授業で、担当していた先生はデザインとは何か、という話をしました。彼が言っていたのもやはり、デザインとは決して装飾的なことのみを指すのでは無い、ということでした。先生はタブレット状のパイプの洗浄剤を手に持って言いました。「この洗浄剤のパッケージは小さな子どもには開けられないように作られています。口に入れたら大変な物だからです。見た目が良いことだけでなくて、しっかり大切な機能を果たすこと、これも一つのデザインなんです。」ですので、見た目を追及するあまり使いづらくなっているモノに対する「コレは見た目だけだから機能なんていいんだよ」というコメントを聞くたびに「違う、そうじゃない、デザインって言うのは違うんだ」と思って生きてきました。水野氏のお話もまた、それを裏付ける話から始まったので、テンションが上がったのです。

デザイン=機能デザイン×装飾デザイン

ではデザインとはいったい何なのか。水野氏は飛行機を例に挙げて説明しました。まず、飛行機にとって機能として必要なものは「飛ぶ」ということです。その為には飛ぶ形をデザインしなければなりません。いくらそれがかわいいからと言って、丸い形では、飛行機は飛びませんので、デザインとしては失敗です。飛行機にとって必要な「飛ぶ」という機能を果たす形にすること、それが機能デザインです。しかし、いくら飛ぶからと言って、ぱっと見でダサければその飛行機に「乗ってみたい」とは思わないでしょう。とんでもない色が使われていたり「根性」という文字が書かれていたら、なんだか不安になります。これらをクリアにし人々に「乗ってみたい」と思わせるのが装飾デザインです。

地方創生も同じで、目的を達成させることがデザインには必要です。例えば地方でイベントを何か行う為にポスターを作成するとしましょう。ポスターを作ることによって達成されなければならない目的とはなんでしょうか。イベントだけを見れば、そのイベントにたくさんの人が来ることは大事でしょう。しかし、その先にある目的は「その地域に興味を持ってもらう」ことだとか「移住者が増える」ことかも知れません。そこまで考えて、デザイナーに伝えて、それを表現するようなポスターを作らなければならないのです。

企業や自治体がデザインを導入しない理由「4つの壁」

多くの企業や自治体は、デザインを導入しませんが、それには4つの壁があるのだそうです。経産省のホームページに載っているデザイン導入の効果測定等に関する調査研究という文書から以下引用します。

① 技術至上主義の壁
デザインは製品に化粧をする「美顔術」であり、本質的なものではないと思っている。このため、技術に比べて優先度が低く、デザインの必要性に思い至らない。
特に、生産財の世界では、機能や技術が最優先であり、デザインが入り込む余地はないと思っている
② 費用対効果の壁
デザインに対する投資の必要性を感じても、どれだけの効果が具体的に見込めるのかがわからず、踏み切れない
③ トラウマの壁
高いデザイン料を払ったものの売上が上がらなかった、デザイナーと大喧嘩した等の過去の失敗経験がトラウマになっており、二度とデザイナーと関わりたくないと思っている
④ 体力の壁
デザインの必要性を感じても、デザイナーに関する情報を集めたり、デザイン料を払ったりする資源的な余力がない

1つ目の技術至上主義の壁は「技術があれば、いいモノならば売れるだろう」という考え方から来るものです。確かに技術がずば抜けていれば、プロダクトは売れます。しかし、裏を返せば、そうでないのなら売れない、ということです。水野氏が挙げた例は地酒です。世の中にはおいしい地酒がたくさんありますが、そのどれもが売れているかと言うと違います。その商品の価値を表すデザインやブランド戦略がある地酒のみが売れているのです。

2つ目は費用対効果の壁ですが、これは良いデザイナーと組むことによって解消されます。有名だからいいデザイナーとは限りません。水野氏によれば、良いデザイナーとはその人との関わりによって、企業や商品、団体が変わるのだそうです。また、デザイナーを決めてからデザインを任せるのではなく、誰に頼むかを決める時点でどんなデザインにするのかを考えるべきだと言っていました。それが、地方創生におけるデザインをする上で自治体職員や地域おこし協力隊などのデザインを発注する側がしなければならない仕事なのだそうです。

3つ目のトラウマの壁そして4つ目の体力の壁もやはり、良いデザイナーを自分たちでしっかり探して選ぶことによってしか取り払えません。ここで水野氏がくださったアドバイスは、「デザイン=高い」は思い込みだということ。今はたくさんのデザイン会社や個人で活動するデザイナーがおり、中には依頼料は安くても企画自体が面白ければ仕事を受けてくれるデザイナーがいるかも知れない、と言っていました。具体的には、アートディレクターズクラブが出している年鑑などを元にデザイナーを探すという手があるとのことです。

 

ちなみにデザイン投資に対しての営業利益は4倍というデータがあります。これもやはり水野氏が紹介していたことですが、経産省「デザイン経営」宣言という文書にはそのようなデータが載っています。これはイギリスのデータですが、£1のデザイン投資に対して、営業利益は£4、売上は£20、輸出額は£5増加しているのだそうです。だったらデザイン、導入しない手は無くない?

ブランディングデザイン

デザインを導入する上で大切なことは、ブランドをデザインすることだそうです。じゃあブランドって何か。水野氏はこれを「見え方のコントロール」と表現します。例えば何か事業を企画するとき、そこには企画者の思いが存在するし、コンセプトとかも大抵の場合はしっかり作ることができます。しかし、それを表現することが上手く行かなかったら、せっかく作り上げたコンセプトも無かったと々ことになってしまいます。最初の話に戻りますが、デザインが単なる飾りだと思っていると、出来上がるデザインは安易なものになりやすく、こういう事態になりがちです。

ブランディングデザインは、受け手にとって自分たちのブランドがどのように見えるのかをコントロールすることです。企業(もしくは自治体や団体など)から消費者に対する発信の方法は広告一つではありません。商品自体、パッケージ、SNS、社長の人格や、クレーム対応に至るまで、消費者に対するアウトプットの積み重ねがそのブランドのイメージをかたち作るのです。その為にブランドを作る側が忘れてはいけないのが、受け手側になったときの気持ちなのだと水野氏は言います。

 

デザインというものが上記したようなものである、という前提で、今度は水野氏自身の手掛けた仕事についてのお話を聞きました。相鉄ホールディングスという神奈川県内を走る鉄道のデザインを依頼されたときのことです。いきなりデザインするのではなく、まずは相鉄についてよく調べ、その中で相鉄にとって横浜が財産だという考えに至り、横浜らしさを売りにするデザインを考えるという方針が立ったのだそうです。コンセプトは「安心×安全×エレガント」。コンセプトというのは、地図や警察、道しるべの役割を果たします。つまり、何かを決めるときの基準、ここに戻ってくれば正しい判断をできる、というものがコンセプトなのです。このコンセプトにのっとって、駅舎を落ち着いたグレーに塗りなおしたり、車体をYOKOHAMA NAVY BLUEと名付けた色のものにしたりしたのが、相鉄ホールディングでの水野氏の仕事です。

 

また、この後に熊本県の職員の成尾雅貴氏を交えてのトークセッションで、くまモンを生むことになった流れについてのお話も聞けました。元々は「くまもとサプライズ」というスローガンのロゴ作成を依頼されていたのだそうです。くまもとサプライズとは、以下に説明するものです。

九州新幹線全線開業をきっかけに、熊本県民が自らの周辺にある驚くべき価値のあるものを再発見し、それをより多くの人に広めていこうという運動。多くの人をひきつける観光資源となることはもちろん、様々なサプライズを掘り起こすことで、県民自身の日常がより豊かなものになる、ということが最大の目的である。(熊本県ホームページより引用)

ロゴマークのデザインをする上で、やはり背景を調べ、このプロジェクトには旗振り役が必要だと考え、くまモンを作ったのだそうです。成尾氏の言葉を借りれば、水野氏は「期待には応えるけど、予想は裏切る」デザイナーなのだそうです。とにかく、水野氏がデザインをする中で「目的を忘れない」ことを大切にしているのだと言うことがわかります。

くまモンに関する話ですと、熊本で地震があった際に新たに作られた復興マークのエピソードもすてきです。くまモンがハートを抱いたデザインなのですが、熊本の復興を願って行われたイベントや活動で広く使用されました。例えば、現地でのボランティア活動でも、街頭での募金の呼びかけでも、居酒屋の熊本復興キャンペーンでも使われました。それぞれが別のことをしていても、同じデザインを使うことで、皆が同じ気持ちだということが熊本の人たちに伝わるのに大きく貢献したと言います。デザインにはそんな力もあるんですね。

 

これらの話を聞いて、本当デザインってものすごく重要なものなんだな、って思いました。これまで自分が企画したイベントのチラシとかを作ってみたりしたけど、単に情報を構成できるのと、デザインができるのは全く別物なんですよね。今後自分が何かを企画するときに、すてきなデザイナーさんと仕事をしたら、きっとすごく楽しいんじゃないかな、ってワクワクしました。

予算がついたから、いつものデザイナーさんに、代わり映えのしないチラシを頼むんじゃなくて、予算がついたから有名なデザイナーさんに、とりあえず目立つポスターを作ってもらうんじゃなくて、自信を持って世に出せる企画を作って、それを誠実に表現してくれるデザイナーさんと仕事がしてみたい!そう思います。