五十嵐ちひろの頭の整頓

考えたことを文章に残しておきます。

ミセス・メイゼルへの憧れ

この記事を最後まで読んでもらう為に、キャッチ―な導入の一文が欲しいと思った。5分程悩んで、諦めた。わたしがこれから紹介する物の魅力を表現するのに、見合うものが浮かばなかった。だけど、早く語りつくしてしまいたい。それほどまでに魅了された。

マーベラス・ミセス・メイゼル」わたしが紹介したいのはAmazonオリジナルドラマだ。

ここで、バーンと大きな画像を載せたいところだが、1つ前の記事著作権についてわめいたばかりなので当然控えます。

 

あらすじ

舞台は1958年、主人公は裕福なユダヤ人家庭の主婦のミッジだ。ニューヨーク・アッパーウェストサイドで数学者の父と専業主婦の母が住むマンションの階下の部屋に、会社副社長の夫と二人の子どもと共に住んでいる。夫のジョールは趣味で漫談をしており、ガスライトというダウンタウンのクラブでしばしばショーをする。ミッジはそんな夫を献身的に支え、ネタ帳を作ったり、出番をいい時間に替えるためにクラブの責任者を手料理で買収したりしていた。ある晩、ショーで大コケしたジョールはミッジに別れを切り出す。実は秘書の若い女の子と浮気していたのだ。ヤケになったミッジは酒を浴びるように飲み、酔ったままガスライトへ行き、即興でその日の出来事を面白可笑しく語ると客には大ウケ。これをきっかけにガスライトの従業員のスージーが彼女のマネージャーとなり、コメディアンとしての道を歩み始める。

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魅力的なキャラクター

ミッジ
言うまでも無く、ミッジは魅力的だ。頭がキレるしファニーな女性というのは、創作の中では理想的なキャラクターだと思う。
スージー
よく男に間違われる背の低い女性。貧しい田舎の家庭の出身で、半地下のワンルームに住んでいるため、ミッジとは全く住む世界が違う。ショービズ界で成功する為に地道に人脈を広めて勉強もしていたので、マネージャーとしての手腕はある。汚い言葉とかめっちゃ言いまくる。
ジョール
あらすじだけ見るとダメ男みたいだけど、実はめっちゃ仕事ができるし、ミッジの1番の理解者でもある。顔も好きです。
ローズ
ミッジの母。美しくあることで良い男の妻になり、悠々自適な生活を送ることこそ正しい、と思っている感じのお母さん。ミッジの娘(まだ1歳くらい)のおでこが広すぎることを心配している。実はフランスへの留学経験があり、貧しい暮らしもお手伝いさんのいない生活もできる。
エイブ
ミッジの父。大学で数学を教えている。かなり頑固で偏屈な扱いづらい人間。この扱いづらさで濃いキャラクターたちの中を生き残っている感じ。
モイシとシャーリー
ジョールの両親。ザ・成金ユダヤ人って感じ。同じお金持ちでもお上品なミッジの実家とは種類が違うので、そりが合わない。
レニー・ブルース
実在したコメディアン。正確も芸風もアイロニック。同じ日に逮捕されたのがきっかけとなり、ミッジを気に入り応援してくれている。レニーが出てくる回はなんか嬉しい。

音楽

BGMは50年代60年代の音楽が流れる。聞き覚えのある曲が聞けた回はなんだか嬉しい。1話に1度はミュージカル風の演出でカメラワークのすばらしさを見せつけてくる。Amazon本気やな、って感じ。

ファッション

この時代のファッションってあこがれる。パリッとしたシルクのAラインのワンピース、縁にラインの入ったセットアップ、服の色に合わせたかわいらしい帽子の数々。わたしはファッションブランドには詳しくないけど、ハイソな人たちのお話だし、多分そうそうたるハイブランドのヴィンテージのお洋服かそれらを復刻させた物が使われているんだと思う。ああ、1度こんなドレスコードのパーティーを開いてみたい。

女性の権利

このドラマを好きになった一番の理由は、女性の権利について考えさせられる部分がたくさんあるからだ。まだウーマン・リブも起こる前の時代、今よりもずっとずっと、女性の地位が低かった時代に、男の世界であったコメディで頂点を目指す主婦の話はワクワクしてしまう。ミッジの芸風もまた、フェミニズムに通じるものがある。フェミ嫌いな人は見ない方がいい。彼女のネタに笑うことで自己嫌悪しちゃうから。

例えば、今まで住んでいた家が実は義父モイシの名義だったことについて。「(前略)ブラのせいね。でしょう?ブラジャーよ!それにガードルやコルセットやなんかに締め付けられてるせいよ!脳に血が回らないんだわ!いつも立ってるのがやっとだから、夫の言うことをそのまま信じちゃうの!」会場にいる女性たちが、うんうん、とうなずきながら笑う。靴のことでも同じようなことを言っていた。夫の靴を履いてみたら、すごく履き心地が良かった、世の中が男性優位なのはハイヒールを履かないからだ、とかね。

また、痛快だったのは、コメディアンばかりが出演するショーでのアドリブ。出演者たちがショーの前にセクハラまがいの発言で絡んできたばかりでなく、スタンというコメディアンはショーの最中に彼女を貶めるようなことを言って、ミッジは非常に屈辱的な思いをする。だがその後のミッジの反撃は最高だった。バーに並んでいる男性コメディアンたちをお笑いでもしなきゃ女を抱けない男たち、と呼び、更にスタンを集中攻撃!「(前略)お笑いは逆境を燃料にするの。無力感や、寂しさや失望も燃料となる。自暴自棄や屈辱もね。どれも女の専売特許だわ。その基準なら面白いのは女だけよ!あとスタンも。」

彼女の芸風に嫌悪感を覚える男性は多い。実際にショーの最中に「キッチンでも磨いておけ!」とヤジを飛ばされることもある。女芸人だからと軽く見られるし、歌手でもすればいいのに、というコメントはしょっちゅうだ。ちなみにこの「歌手でも」というのも非常に失礼な話で、女性は見た目が良ければ歌の上手さなんて誰も評価していない、という意味。

こういった逆境に笑いで立ち向かう彼女の姿に、女性であるがために理不尽な仕打ちを受けたことのある女性なら誰しも勇気づけられ、また胸のすく思いがするはずだ。

 

こんなわけで、このマーベラス・ミセス・メイゼルにドはまりし、1週間であっという間に現在公開中の2シーズンのエピソード全てを一気に見てしまったのだ。ジョールが転職したり、母ローズがフランスに行っちゃったり、新たな男性が現れたりする中で、着実にミッジはスターダムを登っていく。シーズン3の公開が待ちきれないけど、まずはシーズン1と2を見てみて。きっと笑える話があるから。